腸内フローラの多様性喪失仮説

更新日:8月30日

人類は長い歴史の中で、共生常在菌たちの助けで生き延びてきたのかもしれません。

食生活に応じて腸内フローラが柔軟にその組成や機能を変えてきたと推察されます。


特に、古代の厳しい食料不足の環境下では、腸内常在菌は非常に適応的であったと考えられます。

人間は、消化やカロリー摂取の一部を腸内細菌に任せることで、入手可能な食物の日々の変化や季節毎の変化に容易に適応することができたのです。

腸内フローラは環境的適応性は非常に高く、宿主である私たちの健康を支えてきました。


しかし、現代の先進国での何世代に渡って腸内常在菌の栄養である難消化性炭水化物MACs*(腸内常在菌に届く炭水化物)の摂取量不足が続くと、最終的に私たちの健康に有害となる可能性が示唆されています。*(1)

MACs不足は、ヒトの健康に大変重要な短鎖脂肪酸(SCFA)の産生減少に繋がり、深刻な生理的機能変化を招くことになります。

人間と常在菌との相互作用は何千年もかけて最適化されていくものと考えられます。現代の食生活やライフスタイルに起因する新たな腸内フローラの構成の変化が、多くの現代病の原因となっている可能性があります。


そして、腸内フローラの長年の研究で、健康と最も深く関わっているのが、腸内フローラの多様性です。


しかし、アフリカ(マラウイとベネズエラの農村部)と欧米の人々の腸内フローラの多様性を比較した研究結果では、アフリカのグループの方が多様性が高く、短鎖脂肪酸の産生も多く、食物繊維の摂取量も高いことが判明しています。*(1)

先進国の人々の腸内フローラの多様性は、人類の進化過程において、大きく変化した可能性があります。

以下は時間と共に、欧米先進国の人々の腸内フローラが多様性を失ってきた原因の仮説です。


(A)農業化、工業化された食品生産と加工食品によりMACs摂取が減少し、腸内常在菌の多様性の減少に繋がったと考えられるデータがあります。


(B)食事は腸内常在菌の多様性の維持において重要な調整役と考えられますが、公衆衛生、抗生物質、帝王切開、粉ミルクなどの医学的、技術的進歩が、腸内常在菌の多様性維持の妨げになっている可能性があります。*(1)

*MACs:Microbiota-accessible carbohydrates(腸内細菌に届く炭水化物)はスタンフォード大学微生物学・免疫学ソネンバーグ博士が提唱した概念で、難消化性食物成分であるルミナコイドと類似したものです。日本食物繊維学会が提唱したルミナコイドには、難消化性炭水化物以外の難消化性タンパク質(レジスタントプロティン)が含まれます。

出典:

*(1)“Starving our Microbial Self: The Deleterious Consequences of a Diet Deficient in Microbiota-Accessible Carbohydrates”Cell Metab. 2014 Nov 4; 20(5): 779–786.